新コーナー『立石おじさんお話の世界』です。岡山県語りのネットワーク会長の立石憲さんに楽しくてためになる「お話の世界」「語りの世界」を紹介していただきます。1回目は「嘉兵衛鍬」。はたして「かへいぐわ」とは
何を意味するのでしょうか?
春になって、あったこうなる。4月頃になると、本格的に農作業が始まりますな。畑を耕したり、それから、種まきの準備をしたり、もう4月になるともう、百姓は忙しゅうなるんじゃな。嘉兵衛という男がおってな。「いやーきょうは、ええ天気じゃ・山の畑を耕しに行こうかな」そうして、山の畑に出かけて行った。どんどんどんどん、歩いて、畑の近くまで行くと、畑のそばに、高い木がたっとる。その上にカラスが止まっておって、「カヘークワークワークワー、カヘー、クワー、クワー、クワー」と鳴く。「ありゃ、こりゃ、カラスが、嘉兵衛、鍬、鍬、鍬」言うていうとるぞ。「ありゃ、鍬を持ってきとんのを忘れとるがな。鍬がなかったら、耕すことができん。いや、年を取ったもんじゃ」言って慌てて、家に飛んで帰ったんじゃな。家に飛んで帰ってみたら、門で、ニワトリが「コッコッコッコー、コッコッコッコー」エサをついばんどる。それを見た嘉兵衛が「なんならおまえは、毎日毎日、エサをやってこうてやっとんのに何にも教えてくれん。山のカラスはな、エサもなんにのやってないのに、鍬を忘れていっとったら、カヘー、クワークワークワー言うて教えてくれたぞ。役立たずめー」言ってニワトリをパーンとけったところが、パタパタ、パタパタッーとニワトリが向こうに飛んで行って、「クワ、クワ、クワ、トッテーコーカー」言って鳴いたんじゃって。昔こっぷり。




